INTERVIEW

建築家 西田 司が語る

hareilla ATAMIの魅力

熱海の空と海を望む、
浮遊感ある別荘の設計秘話

慌ただしく過ぎてゆく日々から離れ、非日常的な心休まる空間で大切な人とかけがえのない時間を送りたい…。
そんなリトリートの場として生まれた「hareilla(ハレイラ)」。
「ハレイラ」という名称は、「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」の考え方から、特別な1日を指す「ハレ」とラテン語の「ヴィラ(別荘)」を組み合わせた造語であり、歓迎の気持ちを込めて贈られる首飾り「レイ」のイメージも込められています。

今回、熱海に誕生する「hareilla ATAMI」の設計デザインを手がけたオンデザインパートナーズ代表の西田 司 氏に、物件の魅力を伺いました。

「hareilla ATAMI」の設計デザインの依頼を受けたときの感想を
お聞かせください。

日常的な利便性を追う住宅と違い、別荘やホテルの最大の価値は、非日常性を楽しめることにあると思いますが、タイムシェア別荘というスタイルが、住宅とホテルのちょうど間に存在している感覚があり、とてもおもしろいと感じました。
弊社が携わった別荘のオーナー様からもよく伺うのが、「せっかく別荘に行っても現地に着いたら、まずは掃除から始まる…」というお話です。せっかく非日常を楽しみに来たのに、別荘を使っていない間に溜まった埃掃除や草むしりという日常のような時間から始まってしまう…。この点が別荘の価値を下げてしまっている気がしていて、タイムシェア別荘ではそのような掃除などの管理の手間をかけることなく始めから非日常感を味わえる…というホテルの良いところを取り入れた点がタイムシェア別荘の一番の魅力だと思っています。

今回の計画地を見ての感想は?

まず熱海という場所は、古さと新しさが共存しているイメージがあります。例えば温泉宿のイメージがある熱海に一見結びつかなそうなアートイベントを掛け合わせるなど、次の世代の人たちが新しい魅力を作ろうというモチベーションを感じる場所です。そんな熱海に行くこと自体が現代の地域観光になっていますが、青い空と海、山に囲まれた街並みという印象的な風景を楽しめることも大きな魅力のひとつ。そんな熱海で「日常から離れて家族や友人とゆとりある時間を過ごせる場所」になるように設計をしていきたいと感じました。

今回の計画地を見たときの率直な感想として「空と海が綺麗」だということ。眼下には熱海の街並みや山に囲まれた海がすごく綺麗に見えるのが特徴的で、朝日が昇る時間から夕陽で海が赤くなる時間まで、景色の変化を望める素晴らしい場所だと感じました。
一方で傾斜が強いアクロバットな土地でもあったので、この傾斜を活かした浮遊感のある建物にすることでリトリート感、非日常感を演出できるのではないかと考えました。
試行錯誤を繰り返し、両サイドと1階の壁により建物を浮かせる構造とすることで、「空中から空と海を眺める」イメージを実現できました。

「hareilla ATAMI」の設計を手掛けるにあたり、心がけたことは?

普段自分が住んでいる見慣れた風景から意図的に「ずらす」設計としています。
リビングの広さ、天井の高さ、窓から見える景色。これらのスケールや素材感をあえて変えていく…。リビングやキッチン、洗面所が普段から見たことがあるようなものだと、残念な気持ちになるので、別荘の空間に足を一歩踏み入れた瞬間に、日常で感じることのないスケールへの驚きが演出できるように心がけました。

2階のメイン空間は、海と空の眺望を最大限に活かしたワンルームとなっており、高い天井が開放感を一層際立たせ、大人数での賑やかな時間を過ごすのに最適な空間となっています。
窓の向こうに見える熱海ならではの美しい風景が一日、二日と滞在中に変化していくというのが非常に良いと思っていて、その空間の中でご飯を作って食べたり、ゆったり本を読んだり、リビングでくつろいだり、火を眺めたり…という時間がその風景とセットで記憶されていくのが良い点だと思いますね。

対照的に1階は、「浮遊」する構造を支えるという技術的な役割を担いながらも、緑に囲まれた「森の中にいるような穏やかで落ち着いた空間」となっています。静かに読書をしたり、ゆったりと入浴したりと、個人的なリラックスタイムに最適です。
この2つの異なる空間を行き来することで、開放的な賑わいと穏やかな時間の両方を享受でき、海や空、そして森の自然の感じ方の違いを楽しむことができる。いろんな居場所や景色、シーンを創り、別荘ならではの豊かで贅沢な時間と空間をハレイラで創造できるよう、その空気感も含めて設計しました。
また、自然と一体感のある洗面室や浴室のデザインも、通常の住宅から「ずらす」効果につながり、日常的なルーティンを非日常的な体験へと昇華させています。

「hareilla ATAMI」でどのような過ごし方をしてほしいですか?

このタイムシェア別荘というスタイルに私が一番共感しているポイントが、「来るたびにhareilla ATAMIから見える景色が変わる」ということ。晴れの日はもちろんいいし、テラスから熱海の花火を見れることもあるし、季節によって夕日の見え方や、夕日によって染められる空の見え方や雲の雰囲気、海からの風など…建物自体は変わらないけど、建物が内包している熱海のイメージって来るたびに変わると思うんです。
そんな日本特有の四季のすばらしさを来るたびに感じながら、別荘で過ごす時間が「すごく贅沢」だなって思うんですよね。思わずそれを背景に写真を撮りたくなる。この時期の雲が綺麗だった、この時期の夕日が美しかったなど、忙しい現代人が日々の生活で忘れがちな「余白」の時間を再発見し、何もしない贅沢を味わっていただけると嬉しいです。

ご家族で利用される場合

私自身毎年家族6人で旅行に行くのですが、1部屋に6人で泊まれるホテルがなかなかなくて、せっかく旅行に行っているのに2部屋に分かれて寂しい思いをすることも少なくありません…。hareilla ATAMIは大人数でも同じ空間で一緒に楽しめる点が非常に大きな価値だと思っているので、ぜひ大人数で楽しんでもらいたいですね。

キッチンで一緒に料理をしたり、リビングで賑やかに過ごしたり、ファイヤープレイスを囲んで団らんしたり…と家族みんなで過ごす時間と、静かに読書をしたり子どもたちが自由に遊んだりといった思い思いの過ごし方が共存できる空間があるので、誰もが好きなように自分の時間を楽しむことができます。
夜はファイヤープレイスの火を見ながら、子どもが「実は、最近こんなことあって…」と学校での悩みを打ち明けたり、夫婦間でも普段話さないようなことを語り合ったりと…。非日常的でリラックスした環境では、普段の生活では難しい、より深い会話ができたりするのではないかとも思います。

ただの滞在場所ではなく、家族にとって絆を深める大切な場所、繰り返し訪れるたびに、「帰ってきたな」と感じられる場所になってくれればいいなと思いますね。

友人・同僚で利用される場合

ゲストで来られる方は玄関をガチャっと開けた瞬間に「おおーーー!」という驚きと、別荘中を探検してみよう!となると思います。(笑)
また、2階の広さはすごい価値だと思っていて、リビングにいる人とキッチンに立っている人、ファイヤープレイスにいる人、隣り合っている距離が近すぎると気まずいと思うかもしれませんが、それぞれ心地よいパーソナルスペースを保った状態のまま、全体としては一つの輪の中にいるような感覚を持てるので、自然なコミュニケーションを促進できるのではないかと思っています。

皆で一緒に料理をしたり、バーベキューを楽しんだりすることで、自然と会話が弾み、親しい友人との絆を深めたり、同僚との関係性を豊かにしたりすることができます。このような共同作業を通じて、普段の仕事の話だけでは知ることのできない、お互いの人柄や好みを知る機会が生まれると良いなと思っています。

オンデザインパートナーズ

西田 司Osamu Nishida

1976年神奈川県生まれ。2004年にオンデザインパートナーズ設立。住宅からホテルや美術館まで様々な建築においてオープンでフラットな設計を実践するオンデザインパートナーズ代表。
主な仕事として「ヨコハマアパートメント」(JIA新人賞、ヴェネチア・ビエンナーレ審査員特別表彰)、「江の島湘南港ヨットハウス」(日本建築学会作品選奨)、復興まちづくり「ISHINOMAKI 2.0」(地域再生大賞特別賞)「丘の上の住宅」(モダンリビング大賞)、「BMW MINI LIVING」(ミラノサローネ)、「まちのような国際学生寮」(日本空間デザイン賞 金賞)、など。東京理科大学准教授、ビヨンドアーキテクチャ発行人、グッドデザイン賞審査員、ソトノバパートナー。
著書に『建築を、ひらく』『オンデザインの実験』『おうちのハナシ、しませんか?』など。